早稲田大学狂言研究会の日記

早稲田大学狂言研究会 公式ブログ

  • 投稿者:すらりんさん

国立能楽堂 狂言の会 4月22日(金)18時半開演

めったに演じられない大勢ものの「老武者」がみどころ。
六狂連主催公演、第二回「蝉の会」の前日だったため、
早稲田の狂言研から観に行けたのは私と新入生、OBのさとうさんの3人だけでした。

「朝比奈」 シテ/朝比奈 佐藤友彦
      アド/閻魔  佐藤融
      笛/槻宅聡 小鼓/幸信吾 大鼓/柿原光博 太鼓/徳田宗久
      地謡/今枝郁雄 井上靖浩 井上祐一 鹿島俊裕

剛勇無双で知られた朝比奈三郎は、六道の辻でもその武勇で極楽への道を勝ち取るという話。
昨今は痛ましい事件ばかりで、地獄も満員かと思うぐらいですが、このころの人々はなかなか賢く、色々な宗教に帰依することで極楽へ行っていたそうです(閻魔談)。
地獄に来る人が少ないからといって、わざわざ六道の辻まで閻魔様が迎えに出てくるのですから、もうこの辺りから狂言に出てくる鬼のかわいらしさが満開です。
朝比奈三郎は得意の七つ道具を背負って六道の辻にかかり、その大きなシルエットは、閻魔を最初から圧倒しています。(閻魔が細い竹杖を持っているのに対し、朝比奈の持つ青竹の太いことといったら!)
狂言はこうした視覚的な面からも、ストーリーの伝達を助けてくれます。線の細い友彦師が大げさな武器を背負っているのは少しユーモラスでもありました。
「朝比奈」では、狂言の特徴的な構成である閻魔の[責メ]と、朝比奈による[語リ]をみることができます。[責メ]は囃子に乗せて行われ、[語リ]と共に狂言独特の芸を見せる場です。
今回は融師が非常に軽快な動きを見せ、閻魔の可愛らしさを余すところなく出しきっていました。この閻魔のように、一生懸命やることが報われない、というのは狂言のユーモアとして多用されますが、なぜか明るくカラッとした笑いに結びつくのが、狂言の型のすばらしさだと思います。
それにしても、朝比奈の語る和田合戦というのは、地獄にまで伝わる有名な話なんですね。私は不勉強で、いまだによくわかっていませんが。


「惣八」  シテ/惣八 茂山忠三郎
      アド/主人 日下部禮蔵
      アド/僧  茂山千之丞

出家と料理人という、命に対する立場がまったく違う二人が入れ替わって、てんやわんやというお話。
忠三郎師は古風な芸を残している方で、こういうちょっととぼけた役がぴったりはまりますね。
対して、私は「惣八」のどの役でも、それを演じる千之丞師が嫌いです。くどくなりすぎると思うのです。
今回もご多分にもれず、くどいなあ…とあまり楽しめなかったのですが、新入生は楽しんでくれたようでした。
やはり出家と料理人を同時に召抱えようと思ったらそれぞれ前職がその反対だった人が二人そろうって、面白くならないわけがないです。
最後の鯛を読むのと経を切ろうとする画は大好きで、盛り上がって終わることのできる曲ですね。
今でもお正月には、この曲の料理人のように包丁と箸を上手に使って鯛を捌く神事があるそうです。どこかちょっと度忘れしました。


「老武者」 シテ/祖父  野村万之介
      アド/三位  野村萬斎
      子方/稚児  野村裕基
      小アド/宿屋 石田幸雄
      立衆/若衆  深田博治 高野和憲 竹山悠樹
      立衆/祖父  野村又三郎 井上祐一 佐藤友彦 月崎晴夫
      (囃子方は「朝比奈」に同じ)
      地謡/奥津健太郎 佐藤融 野村小三郎 野口隆行

本日のメイン。と私が勝手に考えていました。ここ2年ほど、国立能楽堂の主催公演で万之介先生が稀曲・珍曲のシテを勤められるのが多い気がします。
公演を企画する係に万之介先生ファンが潜んでいるのでは…と邪推を続けているのですが、何はともあれ、こういった曲を観る機会を作ってくれるのは嬉しいことです。
稚児を連れての鎌倉見物のい途中、藤沢の宿に立ち寄った三位ですが、地元の若衆たちに稚児との酒宴を望まれます。いやいや許しはしますが、今度はその酒宴に入りたい祖父を若衆が追い返し、勝手に若衆と祖父衆の戦いが始まるという話。
若衆たちは典雅で秘密の匂いのする稚児に興味津々なのですが、当の稚児は酒盃をべろべろ舐めてしまったりと、全体に「期待はずれ」を基本とするユーモアに富んでいます。
裕基くんはかなり舞台慣れした様子でのびのびと演じていたので、無邪気に周りを振り回す稚児にぴったりでした。
万之介先生はこういった賑やかで派手な曲がお好きですが、役柄が祖父(おおじ)だけあって抑えた芸が丁度よく、素晴らしかったです。
前半は若衆たちと稚児の酒宴に小舞も舞われ、非常に華やかな雰囲気、後半は長道具(棒の先に刃物をくくりつけた武器)を持ち出しての斬組(チャンバラ)で派手派手しく、停滞もなく全体を通して楽しめました。
全体に、能の形式をなぞったパロディ性の強い曲で、能をよくご覧になる観客にはより楽しめたとおもいます。もちろん予備知識がなくても十分楽しめる構成であり、出来でしたから、改めて狂言の奥深さを感じました。
最後は地謡が入り、能ではワキが勤めるユウケンと一拍子での締めで終わります。
万之介先生はユウケンをバシッと決め、拍子を踏んだ後ぐらっとなって、「老武者」らしさを出していました。
万之介先生ご自身も楽しんで演じられていたようで、嬉しい気持ちで帰りました。