早稲田大学狂言研究会の日記

早稲田大学狂言研究会 公式ブログ

−投稿者:すらりんさん

5年生のすらりんです。だいぶ前のレポートになってしまいますが、
久しぶりに鑑賞記を書こうと思います

橋岡會 宝生能楽堂 午後6時30分開演

3月に亡くなられた観世流シテ方の橋岡久馬師の追善の会。
早稲田の一文出身で橋岡師に弟子入りされた荒木亮師の「道成寺」の披キがみどころです。
私は荒木師がゲストとしていらっしゃった授業を2回ほど受けたことがありますが、
非常にわかりやすく、体系だてて謡の構造を説明してくださったことが非常に印象深いです。


一調「絃上(けんじょう)」 謡・橋岡久太郎 小鼓・幸清次郎
小鼓の一調では最短のものだそうです。
たしかに、謡い始めたのを見てから小鼓を手に取り、打った!と思ったらもう終わり、といった感じでした。
物足りない感じもしましたが、謡も鼓の音も非常に好ましかったので、
却って清々しい気持ちになりました。
ご馳走を少しだけ食べる贅沢ってこんな感じかも。

仕舞「融(とおる)」シテ・観世銕之丞 
           地謡・清水寛二、岡田麗史、梅若猶彦、梅若雅一
「融」は追善の会ではよく演じられる曲目です。
(謡に「名残惜しの…」といった文句が入っているため)
銕之丞師の折り目正しい舞は、観ていて非常に気持ちがよく、故人を偲ぶ気持ちが自然に湧き上がってきました。
私はまだまだ能を観慣れないので、芸がぎゅっと凝縮された仕舞を観る方が好きです。

独吟「勧進帳(かんじんちょう)」謡・喜多六平太
喜多流の現宗家による独吟。
私も舞台に立つ人間ですが、独吟の難しさは想像の及ばない範囲です。
幼い頃から宗家として育った人の独特の雰囲気が感じられた、貴重な経験でした。

狂言「隠狸(かくしだぬき)」シテ・野村 萬 アド・野村万蔵
                後見・野村扇丞
狸のぬいぐるみを使うことで有名な狂言
以前万之介先生がシテを勤められたのを拝見しました。
今日は与十郎師が万蔵を襲名されてから初めて拝見する舞台でしたが……
萬師のひとり舞台でした!
ここ2年ほど、萬師は絶好調だと思います。
危なげない芸の上に、太郎冠者の愛らしさや抜け目なさがしっかりと乗っていました。
ただ、芸風がすこし几帳面にすぎるので、「鵜飼」の相舞になる頃には少し重い感じがありました。
私はやっぱり、万之介先生の軽妙な芸風が好きです。
ご兄弟といえど、性格の違いがはっきり出てるのが面白いですね。

   (休憩15分)

能「道成寺(どうじょうじ)」シテ・荒木 亮
              ワキ・大日方寛 ワキツレ・則久英志、梅村昌功
              アイ・野村万禄、小笠原匡 
              笛・一噌幸弘 小鼓・後藤嘉津幸 大鼓・大倉正之助 太鼓・小寺佐七
              後見・観世銕之丞 清水寛二 岡田麗史
              鐘後見・橋岡久太郎 梅若猶彦 坪内比路之 松原 章 半沢 健 
              地頭・梅若修一 地謡・岡田晃一 梅若雅一 宮下 功 小出年彦 吉田重雄

本日のメイン。シテもワキも披キということで、なんだかこっちまでドキドキです。
荒木師は囃子事を一切省略しない、というポリシーを貫いているので、囃し始めてから幕があくまでの長いこと、長いこと。
でも小鼓、大鼓方ともに気合が入っているようで、そんなに重くは感じませんでした。
道成寺は何回も観ていますが、乱拍子で寝なかったことは1回くらいしかありません。
橋岡師は独特の芸風で知られた方で、荒木師も多分にそれを受け継いでらっしゃるため、
乱拍子も結構独特だったみたいなのですが、やっぱり寝ちゃいました。
全体を通じて、囃子方の気合と充実に比して、シテの出来はよくなかったと思います。
荒木師って、謡は上手だけど型がいまいちなんですよねー。
そこに経験不足も揃って、観てる方としては楽しむというより運動会を応援してる感じでした。
まあこれが何十年もたつと、「独特の芸風」として確立されるのかもしれません。

荒木師はいろいろ「みどころ」を用意するのが上手なので(稀曲をたくさん知ってる上にやってくれたり)、
「行ってよかったな」と思う会を作ってくれます。
今回も、会全体をみれば満足いくものでした。