早稲田大学狂言研究会の日記

早稲田大学狂言研究会 公式ブログ

  • 投稿者:筋太郎

国立能楽堂 普及公演
平成17年10月8日 国立能楽堂
午後一時開演

狂言『萩大名』(大蔵流
シテ・・・茂山千作(大名)
アド・・・網谷正美(太郎冠者)、茂山千之丞(亭主)

能『玉井』(観世流
シテ(前場豊玉姫後場・海神)・・・大江又三郎 前ツレ(玉依姫)・・・宮本茂樹 後ツレ(天女)・・・大江泰正、大江信行
ワキ(彦火火出見尊)・・・工藤和哉 ワキツレ(従者)・・・野口能弘、梅村昌功

狂言『貝尽』(大蔵流
アイ・・・丸石やすし(文蛤貝の精)、茂山童司(蛤の精)、茂山正邦(鮑の精)、茂山宗彦(赤貝の精)、茂山逸平(法螺貝の精)、茂山あきら(サザエの精)

笛・・・藤田朝太郎 小鼓・・・亀井俊一 大鼓・・・高野彰 太鼓・・・三島元太郎
後見・・・観世恭秀、牧野和夫、武田尚浩
地謡・・・(前列切戸口から)角幸二郎、武田友志、北浪貴裕、岡庭祥大、(後列切戸口から)上田公威、関根知孝、岡久広、関根祥人


『萩大名』は、何もすることがなくて暇をもてあます田舎大名が主人公です。
彼は太郎冠者のつてで、さる人の家の庭にある満開の萩を見に行くことに。
しかし、そこの亭主は歌が好き。大名は、自分も一首詠まねばならないことを知って渋るものの、太郎冠者にジェスチャーの合図をつけて一首教えてもらい、萩見物に出かけます。
向こうについてさっそく一首詠もうとしますが、ジェスチャーの意味を忘れていて、ちんぷんかんぷんな歌を詠んでしまいます。

とりあえず、千作さんが何事もなく出演していらして一安心。ケガでしばらく舞台を休んでいたという話だったので。
千作さんは、やはり素晴らしい。
舞台で見せる飄々とした、ときにかわいらしい風貌からして、狂言というものを最も自らの身体において具現化した人といっても過言ではないでしょう。
たしかに、全盛期に比べれば声量も衰えてはいるだろうし、今回の舞台でも、太郎冠者役の網谷さんと台詞が(本来そうではないであろうにもかかわらず)かぶってしまっているところがありました。
でも、それを差し引いても、千作さんの存在自体が、舞台を支え、盛り上げるための大きな力になっていることは間違いないでしょう。

それから、千作さんと弟の千之丞さんを見比べて思ったのですが、同じ兄弟でも、芸風は結構違うものですね(これは、萬・万作・万之介の三兄弟にも言えると思います)。
千作さんが「狂言らしさ」にこだわっていると言うなら、千之丞さんは写実性の強い芸風とでも言えましょうか。


『玉井』の間狂言は、『貝尽』。
龍宮が舞台となる作品だけに、鯛や平目が舞い踊るかと思いきやさにあらず。ここで出てくるのは貝たちです。
文蛤貝(いたらがい)の精が他の貝の精を呼び出し、酒宴の舞を演じます。

「貝尽」は、和泉流の小舞にもあり、私も習ったことがあります。大蔵流の小舞は、和泉流に比べると質素ですが、回る型が多く見られるような気がします。
作品としての雰囲気は、『白楽天』の替間『鶯蛙』と似ていますが、設定が酒宴となっているこちらのほうが、より華やかです。
舞台の上の演者は、みんなして貝の被り物を頭につけています(鶯蛙は、ずばりウグイスとカエルでした)。

貝たちを演じる人たちの立ち居振る舞いを見ていると、微妙にタイミングがずれているのですが、それが逆に滑稽さを呼び起こし、楽しく観ることができました。