早稲田大学狂言研究会の日記

早稲田大学狂言研究会 公式ブログ

  • 投稿者:すらりんさん

すらりんです。今日は久しぶりの狂言鑑賞でした。

茂山狂言かるた発売記念「狂言の世界」

八重洲ブックセンター本店 8Fギャラリー
18時開場、18時30分開演

能・狂言専門書店であり、出版社でもある檜書店が先日「茂山狂言かるた」を発売したのを記念して行った狂言公演です。
トークショー・サイン会を同時開催、受付カウンターでは茂山家関連書籍の即売が行われました。
私はうっかり中央線の反対方向に乗ってしまい(面目ないpict:nose4)、遅れて入場しましたが、100名の定員の8割は埋まる盛況と見受けられました。

まずは茂山正邦師によるトーク、これから上演する「口真似」の説明です。小さい会場なので、黒紋付で流暢に説明される正邦師との距離が大変近く、身近な感じがしました。
今回はギャラリーに仮設舞台を組んでいましたが、正邦師いわく「このような仮設舞台でもできるのが狂言の特性」と動じないのに内心びっくりしました。何しろ今日の舞台には橋掛りがなく、出入りも舞台向かって右(能舞台でいえば切戸口)方向からしかできない配置だったのですよ。それでも、「私(正邦師)の親父たちの世代は階段の踊り場で公演したこともある」そうで、「お豆腐狂言」の真髄ここに見たり、と始まる前から感心してしまいました。

「口真似」
太郎冠者:茂山千五郎 主人:茂山七五三 客:茂山正邦

「口真似」は先日の東大駒場祭公演でも出たので、比較的細部まで覚えており、いろいろ流派の比較をしながら観ました。
しかしあの狭い会場では演者との距離が比較にならないほど近く、あらためて狂言師の力量に圧倒されるばかりでした。やっぱりもう発声やら声量やらが「違う」し、丁寧に演じているのに飽きさせないテンポをもっています。
舞台の狭さや橋掛りがない点での困惑はまったくないようでした。後ろを向いて座れば、その人はいないものとされる狂言の約束事なども上手く使いながら、舞台の欠陥を「型」でカバーしていきます。また、そんな中でもそれぞれの個性をのせた演技がみられ、特に千五郎師のやんちゃな太郎冠者には自然に微笑ませられました。
能楽堂ではなく、ここで観るからこそ感じること(黒紋付で解説してた正邦師があっという間に酔狂人の装束で出てきたのにびっくりしたり!)がたくさんあり、さすがプロだな、と感心しきりでした。
ただひとつ惜しむのは、客席に段差がないため、演者が座ってしまうと後ろの観客には演者の姿がまったく見えなくなることです。「口真似」よりも座っての演技が少ない演目もあったはずですから、少し配慮が足りなかったのかな、と思いました。
それから、おわりに酔狂人が退場する際、和泉流では何も言わないのに対し、今日は「これは迷惑」という台詞がありましたが、あれは元々の台本にもあるのかが気になります。以前私は茂山家がNHK伝統芸能鑑賞会などのイベントで「狂言風」に現代語を喋って司会をこなす姿を見ました。それかというもの、わかりやすくするために独自に台詞を挿入したのかもしれないと勘繰る癖があります。今日も「ちょっと来い」など、あまりに現代口語的な台詞が混じっていたと思います。それがいけない、という訳ではありませんが、何をもって「狂言」であると名乗れるのかを考える時には、重要な視点を示すものです。特に私たち学生が演じる狂言について、ただ台詞と型を覚えてやってみせれば狂言なのか、笑ってもらえればそれでいいのか、など考えを巡らす時には、見逃せない例となるでしょう。

上演後は、同じ舞台で千五郎師のポストトークが行われました。檜書店の檜常正社長がインタビュアーとして進行され、多方面にわたるお話を引き出していました。
たとえば千五郎師もファンクラブとの交流会でかるたに挑戦されたこと(狂言の曲名が取り札の文字と一致していないので、狂言を知っている人こそ難しそうです。)や、茂山一家の仲のよさの秘訣(まずぶつかっておいて後に恨みを引きずらないこと)など、かるたと茂山家ファンクラブ両方のPRを十分に含んでいるけれども興味深いお話を聞くことができました。
その後会場からの質問に答えて、笑いの型の違い(大、中、小、泣き笑いとあるそうです)を実演してくださるなど、終始サービス精神に富んだトークで初心者から狂言ファンまで会場全体が盛り上がりました。
私もせっかくなので質問する気満々でしたが、いざとなると自分の心臓の音がうるさいくらいに緊張してしまってできませんでしたpict:nose3仮設舞台に対応する「型」はもうある程度決まったものがあるのかどうか聞いてみたかったのですが……次の機会はがんばりますpict:symbol5

最後に、私服に着替えた三師によるサイン会が行われ、持参したものやカウンターで買ったばかりのかるたにサインを頂こうと、長い列ができました。
出版社・書店の販促の意味合いが強い会でしたが、さまざまな特典によって「能楽堂は敷居が高い」と感じる鑑賞初心者への求心力は強かったと思います。
これをきっかけに、さまざまな人が能楽堂へ足を運び、能楽関係の書籍に触れる機会が増えるなど、狂言界全体の活性化につながることを期待します。